PFAS:優れた特性を持つ化学物質の光と影
神戸市内の企業が製造したミネラルウォーターから、健康への影響が懸念されている有機フッ素化合物のPFAS(ピーファス)が検出されていたことが問題になりました。現在、食品衛生法上の基準はありませんが、水道法の暫定目標値(1リットルあたり50ナノグラム)の最大約6倍に相当する濃度です。市の要請を受けて企業側が対応し、現在は目標値以下に収まっていると発表されています。
有機フッ素化合物PFASとは?
有機フッ素化合物PFAS(Per- and Polyfluoroalkyl Substances:ペルフルオロアルキル物質)は、耐熱性、耐油性、撥水性といった優れた特性を持つ化学物質の総称です。PFASに分類される物質は多くありますが、中でも代表的なものが「PFOS(ピーフォス:ペルフルオロオクタンスルホン酸)」と「PFOA(ピーフォア:ペルフルオロオクタン酸)」です。これらの化合物は、1950年代以来、消火剤、テフロン加工の調理器具、防水衣料、食品包装、化粧品など、さまざまな製品に広く使用されてきました。しかし、PFASは「永遠の化学物質」とも呼ばれ、自然界で分解されにくく、環境や人体に長期間残留することが問題視されています。
PFAS汚染の影響
1. 健康への影響
PFASは、体内に蓄積されやすく、長期にわたって排出されにくい特性を持っています。そのため、長期的な曝露による健康リスクが懸念されています。具体的には、がん、免疫系の障害、発達障害、内分泌系の異常などが報告されています。
2. 環境への影響
PFASは、土壌や水源に広く拡散し、持続的な環境汚染を引き起こします。特に、淡水や海洋の生態系に対する影響が深刻であり、魚類や水生生物に対する毒性が報告されています。また、食品チェーンを通じて人間への二次的な影響も懸念されています。
PFAS汚染の深刻化
1. アメリカでのPFAS汚染
アメリカ環境保護庁(EPA)は、2023年に全米の水道水から検出されたPFAS濃度の最新データを発表しました。このデータによれば、全米の飲料水の約三分の一がPFASで汚染されており、その影響は特に工業地域や軍事基地周辺で顕著です。EPAは、PFASの安全なレベルを大幅に引き下げ、新たな規制を導入する予定です。
2. 欧州での規制強化
ヨーロッパでも、PFASの問題が深刻化しています。欧州連合(EU)は、2023年にPFASの使用制限を強化する新たな規制を発表しました。特に、消火剤や化粧品などの消費財への使用を段階的に廃止し、代替物質の開発を促進する方針を打ち出しています。これにより、EUは2030年までにPFASの使用を大幅に削減することを目指しています。
3. 日本における対応
日本でも、PFAS汚染の影響が確認されています。2023年に行われた調査では、いくつかの都道府県で飲料水や土壌から高濃度のPFASが検出されました。神戸市内でのPFAS検出問題は、環境汚染物質が人々の健康に及ぼすリスクを再認識させるものでした。市と企業の迅速な対応により、現在は安全性が確保されていますが、今後の課題として、明確な基準の設定と持続的な監視が求められます。市民の安全と健康を守るためには、科学的根拠に基づく適切な対策が不可欠です。
・岡山県のPFAS汚染問題
岡山県吉備中央町(人口約1万人)は、昨年10月に水道水から高濃度のPFASが検出され、深刻な環境汚染問題に直面しています。この中山間地域での汚染源は、山中に野積みされていた「使用済み活性炭」が水道水に混入し、国内最悪レベルの汚染濃度を引き起こしました。
汚染の詳細
2020年から吉備中央町では、円城浄水場での水質検査で高濃度のPFASが検出されていましたが、住民には情報が伝えられていませんでした。2020年には800ng/L、2021年には1200ng/L、2022年には1400ng/Lという数値が出ており、これは国が定める暫定目標値の50ng/Lを大幅に超えるものでした。これを受け、円城浄水場の取水源を切り替えるなどの緊急対策が実施されました。
汚染源の発見
汚染源となったのは、使用済み活性炭が野積みされたフレコンバックで、最大450万ng/LのPFASが検出されました。これらは2008年から山中に保管されており、長期間にわたって水源を汚染していた可能性があります。
健康リスクと住民の反応
町内の住民約1000人が影響を受ける可能性があり、特に流産や健康障害のリスクが懸念されています。住民の血液検査をしたところ、血中PFAS濃度が非常に高いことが判明しました。
政府と企業の対応
岡山県も汚染源の調査と対策を進めています。汚染源となった使用済み活性炭の所有者である企業は、「リサイクル用資材」として保管していたと説明していますが、実際には不適切な管理がされていたことが明らかになりました。環境省も事態を重く受け止め、活性炭の製造事業者からの聞き取りを進めています。
・沖縄県の汚染問題
水道水を供給する沖縄県管理の北谷浄水場で、2022年5月、水に含まれる有機フッ素化合物PFASを浄化処理した後に、PFASの値が増える逆転現象が頻発していることが判明しました。2021年度は、51回調べたうち40回で浄水の値が高く、国の暫定目標値以内でしたが、15~18年度は4年のうち3年で超えていました。県は水を浄化する活性炭が経年劣化し、付着したPFASが剥がれ落ちているのが逆転現象の理由とみて、8年に1度の入れ替え頻度を4年に1度に早め(毎年約3億5千万円)、PFASの吸着率がより高い活性炭も導入しています。しかし、特に原水のPFAS濃度が薄い時に逆転現象が起きやすいなど、活性炭はPFASに有効な対策とみていますが、万能ではないとの分析も発表されています。
政策と改善策
1. 規制の強化
各国政府は、PFASの使用規制を強化し、新たな汚染の発生を防ぐための対策を講じる必要があります。具体的には、使用禁止対象の製品拡大や排出基準の厳格化などが求められます。
2. 代替物質の開発
PFASに代わる環境に優しい化学物質の開発が急務です。産業界と研究機関が連携し、安全かつ持続可能な代替物質の研究と実用化を進めることが重要です。
3. 汚染の除去と浄化
既に発生しているPFAS汚染を除去するための技術開発と実施が必要です。土壌や水源の浄化技術の向上と、効果的な除去方法の普及が求められます。
まとめ
PFASの問題は、環境と健康に対する重大なリスクをはらんでおり、国際的な対応が不可欠です。各国政府、産業界、研究機関が協力して、規制の強化、代替物質の開発、汚染の除去と浄化に取り組むことで、この問題に対処し、持続可能な未来を築いていくことが求められています。神戸市内での事例は、市民の安全と健康を守るための明確な基準設定と持続的な監視の重要性を再認識させるものであり、今後の政策策定において重要な指針となるでしょう。
pic:Freepik ※Photo is an image.
0コメント